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あらすじ

天下人となった豊臣秀吉によって、すべてを奪われた織田信長の次男・信雄、関東の覇者を誇る家門を滅ぼされた北条氏規。二人は秀吉に臣従し、やがて朝鮮出兵の前線である肥前名護屋に赴く。その胸中に去来する思いとは何だったのか?屈辱を押し殺し苛烈な時代を生き抜こうとした落魄者の流転の日々を哀歓鮮やかに描ききる感動の歴史小説。

作者より

マイナー時代の最後を飾るこの作品は、あえて複雑な構成に挑んだことで、一段と腕が上がった思い出深いものです。
まず、織田信雄と北条氏規という一見、どのようなつながりがあるか分からない二人を主役に据え、視点もこの二人だけとしました。
現在、進行している時制は文禄元年から二年まで、現在の時制で二人の動く場所は、朝鮮半島進出の拠点となった肥前名護屋陣だけとしました。
この地での二人の様子を追いながら、それぞれの生涯を回想させた上で、最終章で描かれる韮山城攻防戦で、二人の回想を一致させるという仕掛けです。
主役を二人とし、さらにデュアル・フィードバックという難しい手法に挑んだ作品ですが、こうした構成の複雑さを感じさせないほど面白い作品に仕上がったと自負しています。
この作品を通じて私は、綿密な設計図通りに書き進めることの大切さを知りました。
ただし歴史小説ファンは、単に面白いものを望んでいるだけであり、手法的な冒険を誰も望んでいないということを知った作品でもあります。
「ややこしい」「信雄のことだけ描いてほしい」といった意見があるのも否めない事実です。
しかしこの構成があるからこそ、面白いということを忘れてはいけません。
例えばこれが、信雄の生涯を時系列的に追っただけであったら、どれだけ信雄の悲哀が伝わるでしょうか。
同様に、己の才を殺しても家を後世に伝えていかねばならない氏規の辛さが伝わるでしょうか。
落魄の信雄が様々に過去を回想し、己の愚かさに涙するところに、この小説の面白さがあるのです。
同様に、小田原合戦を回避しようとしたにもかかわらず、それが成らなかった氏規の空しさに、この小説の面白さがあるのです。
大半の読者は、信雄の流転の人生も、氏規の地味な後半生も知っており、その前提で構成を考えねばならないのが歴史小説なのです。

書籍データ

出版社 ‏ : ‎ 幻冬舎
発売日 ‏ : ‎ 2022/2/10
文庫 ‏ : ‎ 416ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 434443174X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4344431744

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