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あらすじ

薩摩藩の下級武士ながらも、西郷隆盛と大久保利通に出会い、幕末の表舞台に躍り出た・川路利良。
激動の時代を這い上がり、日本の警察組織を作り上げた川路。
「西郷を殺した男」と同郷人に憎まれつつも、組織と日本という新しい国家に殉じた男の光と影、そして波乱に満ちた生涯を描く歴史巨篇。
〈解説〉榎木孝明

作者より

本作は、薩摩藩の幕末から
明治維新までの流れを、
川路利良の視点から描いた大作です。


この作品を書いた理由は三つあります。


川路が外城士(とじょうし)という、
武士としては足軽同然の
最下層の出身でありながら、
維新政府で異例の出世を遂げ、
現在の警視総監にあたる大警視
という地位にまで登り詰めたことに、
まず関心を持ちました。
つまり川路は、
幕末から明治維新という混乱期に、
自らの能力を頼りに頭角を現わしていった
明智光秀や石田三成のような
男だったのです。


また西南戦争で西郷に付いた
村田新八を『武士の碑』で描いたので、
その対照的人物として
大久保に付いた川路を描こうと思った
ことも執筆動機に挙げられます。
西郷を大恩人としながらも、
鬱屈した心情から大久保側(体制派)となり、
西郷を葬り去ろうとまでした
心の内を描きたかったのです。
これぞ小説にしかできないことです。


さらに私も山田風太郎兄貴に
影響を受けた一人なので、
文明開化で沸き上がる
明治維新期の陰の部分、
言うなればノワールな明治の実像を、
川路という恰好の存在を通して
描いてみたいと思ったこともあります。


この三点が執筆動機になりますが、
そうした理屈は抜きにして、
読者の皆様は川路の視点を通して
「薩摩藩の幕末と維新を
ウォークスルーする(通り抜ける)」
ことをお楽しみ下さい 。 


************


さて、禁門の変(蛤御門の変)で
敵将の来島又兵衛を狙撃する
という大功を挙げた川路は、
幕末期は西郷と大久保の
手足の一人として走り回り、
維新初期の人材不足と
持ち前の上昇志向から
頭角を現わしていきます。
しかしそこには、
無理に無理を重ねて走り続けた男
特有の「負の部分」もありました。


その最大のものが、
西南戦争の際に
大恩人の西郷の許に駆けつけず、
大久保側に付いたことです。
しかも西郷を葬り去ろうとする
陰謀の首謀者にもなりました。


その結果、
西南戦争で西郷一派は潰えます。
そこまでは川路の思惑通りに行きましたが、
大久保が暗殺されることで
川路の運も暗転します。


川路を警察から追い出すために、
長州閥が仕掛けたとしか思えない
藤田組贋札(がんさつ)事件という
謀略にはまった川路は、
フランスへと脱出を試みますが、
途次に病を得て不可解な死を遂げます。


もしも西南戦争の翌年に
大久保が暗殺されなければ、
川路も出世街道をひた走り、
大臣になり元勲になり、
偉人扱いされたかもしれません。
というのも長生きした元勲たちは、
そろって過去の汚れた部分を消し去り、
自伝などで歴史を書き換えることまで
したからです。


そうした意味で、本作は川路利良という
一人の男のビルドゥングス・ロマン
(成長物語)であり、
また維新を分岐点として、
ピカレスク小説つまり
「明治ノワール」でもあるという
二段構造になっているのです。


さて、今回の文庫化にあたって、
単行本版から15%前後のカットを断行し、
リーダビリティを格段に引き上げました。
不用な人物や地名をカットし、
テーマから逸脱するウンチク的なものも
容赦なく切り捨てました。
こうした作業により、
一段と贅肉が剥ぎ取られ、
スリリングな展開が際立つようになったと思います。

書籍データ

文庫: 576ページ
出版社: 中央公論新社(紙書籍) / コルク(電子書籍)
言語: 日本語
ISBN-10: 4122068304
ISBN-13: 978-4122068308

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