あらすじ
雑誌「歴史サーチ」の編集部員・菅原誠一は、特集企画「八甲田山雪中行軍遭難事件」を担当することになった。
遭難死した兵士の数が記録によって違うことに気づいた彼は、青森で取材を開始。当時の悲惨な状況を改めて知る。
特集企画は成功を収め、社長からもう一度、特集を組むこと指示された菅原は、再び青森を訪れた。
遭難死した兵士数の違いにこだわる彼は、遭難事件の半年後に病死した稲田庸三一等卒に注目。取材のため、
地元ガイドの小山内ととともに冬の八甲田に足を踏み入れた、菅原が見たものとは一体――。
伊東潤が世にも有名な「八甲田山雪中行軍遭難事件」を題材に挑んだ、傑作クライムノベル!
書籍データ
単行本: 432ページ
出版社: 中央公論新社(紙書籍) / コルク(電子書籍)
言語: 日本語
ISBN-10: 4120053148
ISBN-13: 978-4120053146
発売日: 2020/6/22
作者より
本作は八甲田雪中行軍遭難事件の謎を、現代の歴史雑誌の編集部員が解明していくという趣向の作品です。
この事件の小説は、新田次郎さんが『八甲田山死の彷徨』を書いて以来約50年、誰も手を付けませんでした。
その偉大な高峰に挑むにあたって、新たな視点で描かなければ意味がありません。
いわば別の登頂ルートから八甲田山の頂上を目指したわけです。
ところがいざ始めてみると、想像以上に苦戦しました。
『八甲田山死の彷徨』を再読し、多視点群像劇という最初の構想のままだと、
新田さんの作品と同じ切り口になりかねないことに気づいたのです。
そこで何らかの刺激が欲しいと思って手を伸ばしたのがドニー・アイカーの『死に山』でした。
この作品は、作者本人がディアトロフ峠事件という
ロシアで実際にあった山岳遭難事件の謎を探っていくというノンフィクションですが、
当事者たち、捜索者たち、そしてアイカー自身という三つの物語(厳密には記録)が入れ子構造で展開されるという秀逸な構成です。
それで『死に山』を換骨奪胎し、
現代の歴史雑誌の編集者たちが八甲田雪中行軍隊遭難事件の謎を暴いていく現代パートと、
事件当時の過去パートの双方を入れ子構造で描いていくという構想ができ上りました。