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あらすじ

太平洋戦争中に起きた非道な捕虜殺害事件。

戦後、BC級戦犯裁判で浮かび上がった、驚愕の真実。

法の正義はどこにあるのか――。

一人の若き弁護士が、“勝者なき裁判”に挑む。圧巻の歴史小説!



昭和19年3月、大日本帝国海軍の重巡洋艦「久慈」は、
インド洋でイギリス商船「ダートマス号」を撃沈。救助した捕虜を殺害した。

敗戦後、「久慈」艦長であった乾と、
「久慈」が所属していた第16戦隊の司令官・五十嵐は、
戦犯として起訴される。

戦犯弁護人として香港にやってきた若手弁護士の鮫島は、
裁判資料を読み込むうちに、
この事件の――大日本帝国海軍の――抱える闇に気づいていく。

作者より

「臭いものには蓋をしろ」という慣用句があるが、
日本人にとって先の大戦は、
いろいろな意味で蓋をしておきたい悪夢であろう。


しかし日本が侵略戦争をした上(異論があるのは承知だが)、
連合国に敗れ去ったのは厳然たる事実だ。


さらに戦犯問題となると、
多くの日本人が聞きたくない話のはずだ。
そのためか日本人の多くが、
BC級戦犯のほとんどが無実の罪を着せられ、
連合国軍の恨みを晴らすために処刑されたと思っているのではないだろうか。


しかし最近の調査結果によると、
BC級戦犯の何割かは間違いなく戦争犯罪を行っており、
彼らが冤罪を主張する論点は「やったか、やらなかったか」ではなく、
「上官の命令があったか、なかったか」がほとんどという事実がある。


われわれは、祖父の世代が犯した罪から逃れることはできない。
否、逃げてはならないのだ。


今回、私は「小説すばる」初登場になるが、
BC級戦犯裁判をめぐる人間模様という極めて重いテーマに取り組むことにした。
もちろん実際にあった事件をモチーフにしているが、
そこからは逸脱し、今日残されている様々なBC級戦犯のエピソードなども加え、
架空の物語として描くことにした。


小説の存在意義は、事実を正確に伝えることよりも、
そのエッセンスを凝縮し、物語として提示することで、
読者に問題の本質を把握いただくことにあると思う。


それゆえ細部においては実際の事件とは異なる点もあるが、
当時の戦犯裁判の雰囲気を伝える上においては、
まさしく「史実」に沿ったものと自負している。


私がこの作品を通して伝えたいのは、
真実を追求することの大切さであり、
結果が望むものにならないと分かっていても、
真実を伝えていく努力を怠ってはならないということだ。


ぜひこの機会に、本稿を通してBC級戦犯事件について
少しでも知っていただき、
その中で繰り広げられた壮絶な人間ドラマと向き合ってほしい。


これも日本人が歩んできた道の一つなのだ。

(「小説すばる」2018年1月号「カーテンコール」より)

書籍データ

単行本: 376ページ
出版社: 集英社 (2019/3/5)
電子書籍:コルク (2019/3/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087711803
ISBN-13: 978-4087711806

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