黎明に起つ 2016年5月12日 Amazonで購入 作者より 皆さんは、北条早雲にどのようなイメージをお持ちですか。 一般には、いまだ「乱世の梟雄(きょうゆう)」、少し歴史に詳しい方でも「関東に覇を唱えた戦国大名・後北条氏の初代」くらいの認識しかないはずです。 ところが歴史研究家の方々のたゆまぬ努力によって、早雲庵宗瑞こと伊勢新九郎盛時の実像が、次第に明らかになってきました。 詳細は本書を読んでいただきたいのですが、大事なことは、早雲が個人的野望から挙兵し、関東を平らげていったのではないことです。彼には大義があり、その大義を実現するために起ち上がり、関東に巣食う守旧勢力を駆逐していったのです。 その大義とは何か。 それこそは、二代氏綱が民に対する布告にのみ使った印判の文字「祿壽應穩(ろくじゅおういん)」に込められています。 「祿壽應穩」とは、「禄(財産)と寿(生命)は応(まさ)に穏やかなるべし」の意で、早雲と氏綱が領国の民に向かって、いかなる施政方針で臨むかを宣言したものです。つまり、現代の民主主義社会で望まれる為政者像の原型こそ、早雲にあるのです。 それは、「天下布武」という印判を使った信長とは、真逆の政治理念でした。 本書は、早雲の生涯を一代記として描いた本格歴史小説です。 史実を吟味し、できるだけ早雲の実像に近づこうと努力しました。とくに、その謎に包まれた前半生については、最新の研究成果を元に、絶妙の着地点を見出したつもりです。 歴史小説は、史実に忠実であることが大前提です。 作家は史実に対して畏敬の念を持ち、真摯(しんし)な気持ちで史実を取り扱わねばなりません。 できる限り史実を曲げず、たとえ断片的であっても、それらを丹念につなぎ合わせ、大きな流れとして再構築せねばならないのです。 本書の場合、それは、早雲の生涯の再構築作業になります。 しかし、それだけでは不十分です。 小説と名乗るからには、物語性の高いものでなければなりません。つまり最も大事なことは、面白いかどうかなのです。 史実解釈と物語性が高い純度で化学反応を起こしたものこそ、名作と呼ばれる歴史小説となり得ます。 むろん本書が名作となり得るかどうかは、読者の皆様個々の判断に委ねられます。 しかし私が、早雲という一人の男と真剣勝負した作品であることは間違いありません。 私も早雲と共に、混迷の室町末期を走り抜けました。 その熱い戦いを、皆さんに追体験していただければ幸いです。 書籍データ ・価格 : 1,680円(税込) ・単行本 : 320ページ ・出版社 : NHK出版 ・ISBN -10 : 4140056428 ・ISBN -13 : 978-4140056424 ・発売日: 2013/10/24 Amazonで購入
作者より
皆さんは、北条早雲にどのようなイメージをお持ちですか。
一般には、いまだ「乱世の梟雄(きょうゆう)」、少し歴史に詳しい方でも「関東に覇を唱えた戦国大名・後北条氏の初代」くらいの認識しかないはずです。
ところが歴史研究家の方々のたゆまぬ努力によって、早雲庵宗瑞こと伊勢新九郎盛時の実像が、次第に明らかになってきました。
詳細は本書を読んでいただきたいのですが、大事なことは、早雲が個人的野望から挙兵し、関東を平らげていったのではないことです。彼には大義があり、その大義を実現するために起ち上がり、関東に巣食う守旧勢力を駆逐していったのです。
その大義とは何か。
それこそは、二代氏綱が民に対する布告にのみ使った印判の文字「祿壽應穩(ろくじゅおういん)」に込められています。
「祿壽應穩」とは、「禄(財産)と寿(生命)は応(まさ)に穏やかなるべし」の意で、早雲と氏綱が領国の民に向かって、いかなる施政方針で臨むかを宣言したものです。つまり、現代の民主主義社会で望まれる為政者像の原型こそ、早雲にあるのです。
それは、「天下布武」という印判を使った信長とは、真逆の政治理念でした。
本書は、早雲の生涯を一代記として描いた本格歴史小説です。
史実を吟味し、できるだけ早雲の実像に近づこうと努力しました。とくに、その謎に包まれた前半生については、最新の研究成果を元に、絶妙の着地点を見出したつもりです。
歴史小説は、史実に忠実であることが大前提です。
作家は史実に対して畏敬の念を持ち、真摯(しんし)な気持ちで史実を取り扱わねばなりません。
できる限り史実を曲げず、たとえ断片的であっても、それらを丹念につなぎ合わせ、大きな流れとして再構築せねばならないのです。
本書の場合、それは、早雲の生涯の再構築作業になります。
しかし、それだけでは不十分です。
小説と名乗るからには、物語性の高いものでなければなりません。つまり最も大事なことは、面白いかどうかなのです。
史実解釈と物語性が高い純度で化学反応を起こしたものこそ、名作と呼ばれる歴史小説となり得ます。
むろん本書が名作となり得るかどうかは、読者の皆様個々の判断に委ねられます。
しかし私が、早雲という一人の男と真剣勝負した作品であることは間違いありません。
私も早雲と共に、混迷の室町末期を走り抜けました。
その熱い戦いを、皆さんに追体験していただければ幸いです。