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作者より

本作は、江戸末期から明治初期にかけての紀州太地(和歌山県太地町)を舞台に、捕鯨集団「太地鯨組」を率いた最後の棟梁・太地覚吾を主人公にした長編小説です。
同じく太地の捕鯨を題材にした『巨鯨の海』という作品では、捕鯨に携わる様々な人々にスポットライトを当て、連作短編形式のクロニクル(年代記)としましたが、本作は、鯨組棟梁である覚吾を主人公に据えた一代記として描きました。
もちろん『巨鯨の海』を読んでいなくても楽しめるようになっていますし、逆に『鯨分限』を読んでから『巨鯨の海』を読んだ方がしっくりくるかもしれません。

この作品のテーマは、ズバリ「男の生き様」です。
日本史における最大の変革期は、やはり幕末から明治維新にかけてだと思いますが、以前から私には、島崎藤村の『夜明け前』のような作品を、海を舞台にして描きたいという野望がありました。しかも武士ではない人物を探していたところに、『巨鯨の海』の取材で太地覚吾と出会ったのです。
覚吾は、幕末から明治へと、政治・経済・社会から人々の生活様式まで、すべてが激変する時代を生き抜いた男です。何かを成し遂げたいという一念で突っ走る青春時代、太地鯨組の棟梁となり、新規事業分野とも言える蝦夷地での捕鯨を模索する青年実業家時代、海難事故「大背美流れ」の対応に追われる壮年時代と、覚吾には、現代を生きる我々には考えられないくらいの苦難が降りかかります。それでも覚吾は、鯨組とその家族のために懸命に努力し、鯨漁の未来を切り開いていこうとします。そこには、執念とか信念といったものを超越した、配下を食べさせていかねばならないという男の生き様が凝縮されています。
また本作は構成にも趣向を凝らしており、最近のハリウッド脚本術を取り入れ、現在と過去を「入れ子構造」にするという変則的な時間の進め方をさせています。あらゆる角度から検討し、読者にストレスのかからないようにしていますので、話が飛び飛びになるという印象を抱くことはないはずです。
本作では、そうした私の長編ストーリー・テラーとしての特長を存分に発揮した作品になっています。うねるように展開する(グルーヴしていく)ストーリーを存分にお楽しみ下さい。
本作でも、最新作が最高傑作という、読者の皆様とのお約束を守れたと断言できます。
読み始めると止まらなくなるので、翌日、会社のある方はご注意下さい(笑)。

書籍データ

価格:1836円(税込)
単行本: 394ページ
出版社: 光文社
言語: 日本語
ISBN-10: 4334910513
ISBN-13: 978-4334910518
発売日: 2015/9/17

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