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作者より

室町時代末期、不屈の闘志で守旧勢力に対抗し、戦国時代の扉をこじ開けた男がいた。
その男の名は長尾景春。
関東管領・山内上杉顕定との確執、兄とも慕う道灌との激闘、そして北条早雲との出会い――。
叛臣、逆徒、奸賊と呼ばれた一人の男の生涯を通して、戦国前夜の関東をダイナミックに描いた本格歴史小説。
これだけ変化の激しい企業社会に生きていると、リストラの名の下に、誰しも突然、アウトサイダーとされてしまうことがあります。
リストラでなくとも、些細なきっかけや人間関係のもつれから、組織を脱せざるを得ないこともあるでしょう。
組織社会に生きることに慣らされた人間にとり、アウトサイダーとなることは、理由はどうあれ、大きなショックとなります。それに耐えられず、死へ逃避する人さえいるほどです。
長尾景春も同じでした。
景春は自らの意志に反し、アウトサイダーとされ、討伐を受ける身となります。しかし彼は、体制側と妥協せず、徹底的に反抗します。幾度も挫折し、泥にまみれながらも、その都度、立ち上がりました。
そして、同時代の人々が次々と姿を消していく中、景春だけは関東平野の真ん中に立ち続けました。
戦国時代が始まる直前の激動の時代は、混迷を極めており、現代とも重なる部分があります。
こうした時代だからこそ、自らの力で自らの運命を切り開いていかねばならないのです。
私は、そうした思いを景春に託しました。

書籍データ

・価格:756円(税込)
・文庫:352ページ
・出版社:講談社
・ISBN-10: 4062779013
・ISBN-13:978-4062779012
・発売日: 2014/8/12

書評

『叛鬼』下剋上貫いた武将描き出す (単行版)
日本経済新聞夕刊2012年6月20付 文芸評論家 縄田一男

いま、いちばん直木賞に近い歴史作家・伊東潤が最新作の主人公に選んだのは、生涯、叛鬼(はんき)として下剋上(げこくじょう)を貫いた長尾景春である。
関東管領・上杉顕定を平らげたのを振り出しに、はじめこそ、正義と孝心の相克に苦しみながら、その後は、まったくブレることなく覇道を突き進んでいく。その姿は2011年、吉川英治文学新人賞候補、「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞、同年下期直木賞候補となった作者のよう。
しかしながら、豪腕作家といわれ、重量級の戦国ものの書き手といわれてきた作者は、次第に読みやすさや、作中人物の心の襞(ひだ)に分け入る術に長じ、もはや只者(ただもの)ではない。
兄とも慕っていた太田道灌に向って、景春が断腸の思いで、「民と国衆の意を汲(く)んだ政道を行う者こそ、人の上に立つべきであり、そうでない者を斃(たお)すことは、天道に反することではありませぬ」と問う時、或(ある)いは景春は泣き濡(ぬ)れた鬼であるかもしれない。
そして彼の行動は、北条早雲ら、新たな時代の胎動を導き出していく。作者が下剋上に借りていっているのは、腐り切った現代の政治に対する一言、覚醒せよに他ならない。

評価★★★★★(5段階評価)

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