第二十回「中山義秀文学賞」を受賞した『峠越え』が、いよいよ文庫化されます。
この作品は、徳川家康最大の危機と言われる伊賀越えを描きつつ、家康が過去を回想していくという構成です。
現在と過去の時間が並行して進むという入れ子構造の長編小説です。
装画はヤマモトマサアキさんにお願いしました。
不穏な雰囲気と緊迫感が漂う秀逸なカバーですね。
解説はペリー荻野さんに依頼しました。
まだペリーさんとは面識がないのですが、以前からこの作品が「大好き」だと、いろいろな方に言っていただいていたので、お願いした次第です。
まず解説冒頭の「『峠越え』は、からくり、スリル、人間ドラマという物語の面白さが隙間なく詰め込まれた、とても贅沢な作品だ」というお言葉で、この作品のすべてが言い表されていると思います。
私が子供の頃から感じていた歴史小説を最も面白くなくさせるポイントは、「この人物は偉いんだぞ」と作者が持ち上げてばかりいるものに尽きます。
「偉い人の話なんて、誰も読みたくないよ」というのが本音でした。
それを考えれば、家康ほど「偉い、偉い」と言われてきた人間はいません。
だけど史料を当たっていると、その行間から、「わしはそんなにえらかないよ。ただ必死だっただけだよ」という声が聞こえてきます。
私は、そんな家康の本音を小説にしたいと思いました。
新時代の歴史小説を読みたいと思われる方は、ぜひお手に取って下さい。
後悔はさせませんよ(笑)。