幕末から明治維新という時代は、日本人の価値観が大きく変わる変革期だった。
徳川家康以来、260年余も続いた幕藩体制が、外圧によって揺らぎ始め、武士たちは新たな「国家のかたち」を模索していた。そうした中、武功によって名を挙げ、それをきっかけにして出頭の階を上っていった男がいた。
川路利良である。
利良は薩摩藩士の中でも最下層に近い与力に属し、半士半農の極貧の家に生まれた。本来であれば、そのまま名もなき男として生涯を終えるはずだったが、禁門の変で長州藩の実質的司令官である来島又兵衛を狙撃するという大武勲を挙げることで、出頭のきっかけを掴む。
幕末から明治維新にかけて、利良は西郷隆盛と大久保利通の走狗となって頭角を現し、やがて警察組織の編制を託され、自らは大警視(警視総監)にまで上り詰める。
だが明治六年、政治路線の対立から西郷と大久保が決別することで、利良も大きな岐路に立たされる。
――西郷を取るか、大久保を取るか。
利良の決断は、その後の日本の運命をも変えるものだった。
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