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書籍データ

・価格: 1,650円(税抜)
・単行本: 371ページ
・出版社:徳間書店
・ISBN:978-4198638221
・発売日:2014/07/09

書評

高師直と聞いて、どれだけの方が、その名を知っているでしょうか。
南北朝時代を勝ち抜いた足利尊氏が、室町幕府を開くのはご存じだと思いますが、その尊氏を支えたのが弟の直義と、足利家家宰(執事)の高師直です。
ほかの天下人、例えば平清盛、源頼朝、織田信長、豊臣秀吉らと比べると、尊氏というのは主体性に乏しく、具体的な国家ビジョンがあるわけでもなく、何となく天下を取ってしまった感があります。
これは家康にも多少、共通していますが、さすがに家康も、尊氏ほどではありません。
つまり尊氏に天下を取らせたのは、直義と師直と言っても過言ではないでしょう。
直義というのは謹厳実直で平衡感覚に優れた、まさに裁判官のような男です。それに対して、師直は、公家や寺社などの既得権益層を足蹴にし、力だけを恃みとする者たちを重用した実力主義の権化のような人物です。
この師直を主人公に据えた長編小説は、これまでありませんでした。
そこで師直の視点を通して、南北朝の混沌を描いたのが本作です。
むろん「悪」という言葉には、本来的な意味だけでなく「強い」という意味もあります。つまり己の力だけを恃みとして、南北朝時代を生き抜いていったのが師直なのです。
野望を達成するためには手段を選ばず、悪に生き、悪に死した男、高師直。
これほど魅力的な男がいるでしょうか。

本作の特徴やよみどころは、以下になります。
・歴史小説とピカレスク・ロマンの融合
・歴史小説であるにもかかわらず、ストーリーテリング性に富む
・南北朝の戦いを史実に忠実に再現しつつも、独自の解釈を随所にちりばめている
・『太平記』にあるような勤王派視点でなく、足利政権視点で時代背景や政治状況を描いている
『太平記』そのものを読むのもたいへんですし、『太平記』をベースにした小説も長いものが多い。ましてや、南北朝時代の研究本など読みたくないという諸兄は多いと思います。
本書は、南北朝の戦いから観応の擾乱までを単行本一冊に凝縮しつつも、個々の戦いを詳細に描き、登場人物個々のキャラを立たせた上、それぞれの心理描写を密にしています。
それゆえ、これ一冊で南北朝時代の全容が分かるだけでなく、歴史小説の醍醐味を十分に堪能できます。
伊東潤の新境地「歴史ピカレスク」を存分にお楽しみいただければ幸いです。

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