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作者より

絢爛豪華たる安土桃山文化の主座を占める茶の湯。それは、死と隣り合わせに生きる武士たちの一時(いっとき)のやすらぎだった。その茶の湯文化を創出した男と、その弟子たちの生き様と死に様もまた、武士たちに劣らぬ凄絶なものだった。戦国時代の後半を舞台に繰り広げられる”もう一つの戦い”秀吉対利休。果たして真の勝者はどちらなのか。

利休を描くということは、その死の謎に迫らないわけにはいきません。この作品では、利休の弟子たちの生涯をそれぞれの視点で描くことにより、外縁部から徐々に利休の死の謎に迫り、最終的に、その核心に達するという構造になっています。
視点人物は以下になります。

『天下人の茶』第一部  豊臣秀吉
『奇道なり兵部』    牧村兵部  
『過ぎたる人』      瀬田掃部
『ひつみて候』     古田織部
『利休形』       細川三斎(忠興)
『天下人の茶』第二部   豊臣秀吉

これでは短編集なのか長編なのか分からない、とお思いでしょう。
「オール讀物」掲載時は、それぞれが独立した短篇となっていました。それを本書では、連作長編という形式に改めました。連作長編色を強めるべく、『天下人の茶』を一部と二部に分け、最初と最後に入れる方式を取りました。
ただし連作長編という用語自体が、今ではあまり使われておらず、死語に近いため、メディア上は長編で押し通しています。
どうして、こういう変則的な方式を取ったのかというと、小説にとって、長編や短篇といった区分けが無意味であると訴えたかったからです。長編や短篇といった手垢の付いた概念から脱し、一つの作品として、虚心坦懐に読んでいただきたいという願いが込められています。
つまり『池田屋乱刃』で高めた短篇の結合度を、さらに高めるために、こうした構成を取ったとも言えます。
さらに、『天下人の茶』第二部で、秀吉と利休に焦点を当て、歴史の流れを俯瞰し直すことで、二人の関係が、より輪郭をもって浮かび上がってくるからです。
一読いただければ、こうした構成を取った理由が、よく分かると思います。もちろん雑誌掲載時に、そうする前提で書いているので、読んでいて混乱やストレスは全く感じないはずです。
最後になりましたが、このカバーをご覧下さい。言葉もありません。装画の久保田眞由美様と装丁の大久保明子様にも大感謝です。
伊東潤の渾身作『天下人の茶』を手に取っていただければ幸いです。

書籍データ

価格:1500円(税別)
単行本:274ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 4163903763
ISBN-13::978-4163903767
発売日: 2015/12/5

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