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書籍データ

価格: 1500円(税込み)
単行本: 303ページ
出版社: 叢文社 (2004/05)
ISBN-10: 4794704925
ISBN-13: 978-4794704924
発売日: 2004/05

作者の一言

四十二歳まで小説家になるなど思っても見なかった私が、最初に書いた作品です。まったく小説など書いたことのない私がなぜここまで書けたのかは、今もって謎です。
 この作品は、『血風録』と比べて推敲にも時間をかけられたので、文章は随分とすっきりしていますし、キャラも明快に立っています。特に間宮康俊は、お気に入りのキャラとして『血風録』にも登場いただきました。康俊には、「自らの作品の中で死ねる芸術家は築城家しかいない」という名セリフを吐かせたかったのですが、戦国当時、「芸術家」という概念は未成熟でしたので断念しました。
 この作品はコンパクトなので読みやすいらしく、「『武田家滅亡』は挫折したけど『悲雲山中城』は読みきった」とおっしゃられる方が多いです。短い中にも、Canned Heatされている(熱気が詰まっている)作品だと自負しています。

あらすじ

戦国時代のアーティストである築城技術者。その普請(土木作業)分野を得意とする間宮家当主康俊は、玉縄城主北条氏勝から密命を受ける。
“山中城修築” やがて康俊は、心血を注ぎ、山中城を不動不沈の凶器に変えんとする。おりしも、上方との手切れは近づき、山中城はその緒戦で秀吉の大軍を引き受ける可能性が高まった。
 山中城には、普役人夫として駆り出された武蔵小河内の住人、茂吉と与五郎の姿もあった。平凡な農民の茂吉は一日も早く自分の畑に戻ることだけを念じていたが、名ある武士になりたいと願う与五郎は、山中城で頭角を現す機会を窺っていた。
 その頃、上方勢の中でも、北条家滅亡後を見据えた水面下の暗闘が始まっていた。秀吉と三成陣営、それに対抗せんとする家康と本多正信の知恵比べは、中納言秀次とその家臣らも巻き込み、壮絶な渦を成してゆく。その渦は、怒涛のように山中城に収斂されようとしていた。
 一方、山中城はいまだ修築半ば。しかも、兵員数、鉄砲数も康俊の想定をはるかに下回るものしか配備されないことがわかってきた。玉砕必至の中、山中の守将たちは、それぞれの戦国武士道を完結させようとする。

書評

2004年9月5日 神奈川新聞 「かながわの本」欄掲載 
“北条一族の存亡かけた戦い”(書評題名)
 相模の戦国大名・北条氏が、一族の存亡をかけ豊臣方と戦った山中城(静岡県三島市)
攻防戦を取り上げた時代小説。
 北条氏に強い思い入れを持つ著者は、この戦で北条武士の心意気を示したと評している。
北条氏勝を大将に(著者注:大将は松田康長)、間宮康俊、松田直長ら城方の捨て身の抵抗
は、北条の名を貶めた「小田原評定」のイメージを払拭するほど壮絶だった。
 一方で北条氏滅亡の原因も冷静に分析。関東一円を幕府・朝廷の影響が及ばない独立圏
とするもくろみを持っていた北条氏には、上方への関心が希薄で情報も少なかった。それ
ゆえ、秀吉を甘く見ており、西で起こった新しい機運にも鈍くなっていた。
 その最も顕著な例として「兵農一致」と「兵農分離」をあげている。北条氏がとってい
た農民が非常時には兵となる「兵農一致」は、上方の「兵農分離」と比べると、素人混
在の集団対、戦のプロ集団。戦術や意識の点で大きな差があったのは否めない。
「兵農一致」の犠牲となった領民・茂助の母を綴った結末がいい。帰ってこない息子への諦めと望みとが交錯する母の心情を、情景描写を交えて淡々と描くくだりは切なくなるほどだ。気丈な茂助の母親には民の強さと希望が読み取れる。

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