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「第2回歴史時代作家クラブ作品賞」受賞作品

作者より

皆さんは天狗党を、ご存じですか。
実を言うと、司馬遼太郎さんの西国偏重史観に染まっていた私も、名前くらいは知っていても、その実像までは知りませんでした。
戦国だろうが幕末だろうが、司馬さんは全くと言っていいほど東国に関心がなく、いま思うと、ひじょうに地域性の強い作家でした。水戸藩の尊攘運動についてもしかりで、冷淡に切り捨てていたことを思い出します。
ところが東国、とくに水戸藩では、薩長土肥に先んじて尊攘思想が盛んで、激しい尊攘運動が巻き起こっていました。
それが桜田門外の変、東禅寺事件、坂下門外の変、そして天狗党事件へとつながっていきます。詳細は記しませんが、彼らは西国の志士たちに何ら劣らない理想を掲げ、死んでいきました。
私はこの作品を通して、自らの命を顧みず、素志を貫徹しようとした天狗党隊士の生き様を通し、私利私欲の介在する余地のない、大義に生きる人生の素晴らしさを知ってもらいたいと思いました。
この作品は、私にとって、初めて戦国以外の時代に踏み出す契機となった作品です。しかし、作家としての守備範囲を広げたいということよりも、幕末の男たちの純度の高い「志」を現代に伝え、「志」を持つことの大切さを知ってほしかったのです。
「志」不在の今だからこそ、この作品を、できるだけ多くの方にお読みいただきたいと思っています。

書籍データ

価格 : 税込853円
文庫本 : 575ページ
出版社 : 新潮社
ISBN: 978-4101261713
発売日: 2014/9/27 

書評

『義烈千秋』 熱い人物像 史実も逃さず
日本経済新聞夕刊2012年2月15日付(単行版書評) 文芸評論家 縄田一男

この頃、伊東潤作品の登場が多いなと思う向きもおられるだろうが、出来がよろしいので仕方がない。
これまで山田風太郎『魔群の通過』や吉村昭『天狗争乱』等、水戸藩天狗党を扱った作品に傑作が多い。しかしながら前者は恐るべき客観性で、後者は史伝的手法で書かれている。従って本書のように藤田小四郎はじめ作中人物の熱い血が、これほどまでに直截的に描かれるのは、はじめてではあるまいか。それは取りも直さず、作者の幕末最大の悲劇の主役となってしまった男たちに寄せる熱い思いの反映でもあろう。
が、その一方で作者は、史実をきっちりと踏まえ、この争乱が<平成>の政治・経済・外交と二重写しになる事件であることを書くのを怠ってはいない。
そして本書の最大の読みどころは、実は天狗党という集団が個に解体される、すなわち、決して長々とではないが、党に加わった男たち一人ひとりの思いが開陳される刹那の慟哭にある。
さらにラスト1ページの感動は、司馬遼太郎『燃えよ剣』のそれに迫るといっていい。
現時点における作者の最高傑作といえよう。
評価★★★★★(5段階評価)

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